一緒の食卓で

1/1
前へ
/11ページ
次へ

一緒の食卓で

 ぽちゃ。  鍋にカレーのルーが沈む。 「弱火で20分煮込むなら強火で10分くらいいけばいいかな」という小さなひとり言を俺は聞き逃さなかった。 「誠司さん、強火って弱火の2倍火力があるってことじゃないから」 「違うのか」 「煮込むってそういうことじゃないですよ。てかご飯炊きました?」 「あっスイッチ入れ忘れてる」    あれからひと月が立った。俺達は一緒にカレーを作っている。正確には、俺が誠司さんに教えている。休みが合う時はこういう時間を作るようになった。  家は前より少し散らかり、かろうじてゴミ出しの日は守れているといったありさま。だけどこの生活も悪くない。  母さんが遺したドリップコーヒーを、俺は飲むようになった。暑くなってきたから、氷を入れて。まだ少し苦いけれど、おいしい。  ぐつぐつ煮込まれる鍋を見ながら、俺は昨日の買い物を思い出す。和樹と一緒に、タオルハンカチを選んだ。誠司さんには無難で実用的なものがいいだろうと思った。今は棚の中に隠してある。  ちょっと早いけど、誕生日プレゼント。受け取ったらどんな顔をするか、今から楽しみだ。  誠司さんが仏壇に供える小皿を準備している。  台所にカレーのいいにおいが漂い始めた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加