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一緒の食卓で
ぽちゃ。
鍋にカレーのルーが沈む。
「弱火で20分煮込むなら強火で10分くらいいけばいいかな」という小さなひとり言を俺は聞き逃さなかった。
「誠司さん、強火って弱火の2倍火力があるってことじゃないから」
「違うのか」
「煮込むってそういうことじゃないですよ。てかご飯炊きました?」
「あっスイッチ入れ忘れてる」
あれからひと月が立った。俺達は一緒にカレーを作っている。正確には、俺が誠司さんに教えている。休みが合う時はこういう時間を作るようになった。
家は前より少し散らかり、かろうじてゴミ出しの日は守れているといったありさま。だけどこの生活も悪くない。
母さんが遺したドリップコーヒーを、俺は飲むようになった。暑くなってきたから、氷を入れて。まだ少し苦いけれど、おいしい。
ぐつぐつ煮込まれる鍋を見ながら、俺は昨日の買い物を思い出す。和樹と一緒に、タオルハンカチを選んだ。誠司さんには無難で実用的なものがいいだろうと思った。今は棚の中に隠してある。
ちょっと早いけど、誕生日プレゼント。受け取ったらどんな顔をするか、今から楽しみだ。
誠司さんが仏壇に供える小皿を準備している。
台所にカレーのいいにおいが漂い始めた。
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