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区切り
数日後、俺は火葬場の待合室にいた。
なんでこんなことになったんだろう。
いつも通り登校して友達と話して、弁当を食べて、午後の授業をうつらうつらしながら聞いていると呼び出しがかかった。
「お母さんが意識を失ったらしい」
嘘だろと思った。
病院につくと母さんは真っ白な顔で横たわっていて、息をしていなかった。
「母さん?」
肩を揺さぶれば「ああよく寝た!」と起きてくれるんじゃないかと思った。だけど触れると体の内側に「生きてる」気配がなくて、物体になっていた。もう話さない。動かない。こんなことになるなんて。ああそうだ、あいつも呼ばなきゃと電話したけど呼び出し音が鳴るばかりで、ようやく病室に来たのは二時間も経ってからだった。
「すまない、遅くなった」
「……」
返事をする気力もなかった。あいつは冷静に母さんと対面した。看護師さんが来て、気遣いながらお悔やみと、もろもろの手続きの説明をする時も落ち着いていた。
そこから世界が凍りついたような、一枚ベールをかぶったような、そんな非日常の感覚が続いている。
葬式の最後、棺の中の母さんはひまわりに囲まれた。好きな花で、よく似合っていた。
棺が焼き場の奥へ入れられ、扉が閉まる。
まだ生きてるかもしれないじゃないか、やめてくれと叫び出しそうになる。でももう二度と母さんの目が開かないこともわかっていた。
「それでは喪主の方は、スイッチを押してください」
それまで人形のように立ち尽くしていたあいつの体がビクッとして、だけど動かない。
俺は一歩踏み出し、スイッチを押した。
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