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ただいま
母さんの骨壺を抱いて帰って、和室に入った。お供え物のバナナが黒ずんでいた。その向こうで父の遺影がびっくりしたように見えた。そうなんだ父さん、母さんも死んじゃったよ。そう頭の中で言いながら、母さんの遺影も置いた。
各々無言で適当にあるものを食べて、流れで風呂に入って。でもベッドに入っても寝付けなかった。
母さんの死因は、心停止だった。病院の駐車場、車内で亡くなっていた。職場の人が見つけてくれたらしい。看護師だった母は慕われていて、俺よりぐしゃぐしゃに泣いている人が何人もいた。
寂しくなる。もっと一緒にいたかった。そんな言葉をもらえるのはありがたかった。だけど葬式も終わる。皆故人とのお別れをすませて日常に戻っていく。息子の俺だって、いつまでもぼうっとしていられない。
翌朝、同居人は先に起きていた。驚いたのは、テーブルに朝食が用意されていたからだ。この人が料理するところなんて一度も見たことがなかったのに。
「おはよう」
「……おはようございます」
「すまない、やるだけやってみたんだが」
「いえ、ありがとうございます。いただきます」
向かいに座って、静かな食事が始まった。ひどいもんだった。トーストは焦げているし目玉焼きは涙目になっている。塩コショウもかけすぎだ。俺の方がまともな食事を作れるのに、と思いながらなんとか牛乳で流し込んだ。
「武春君、話がある」
「……なんですか」
俺はやっと相手の目を見た。
戸籍上、俺の父親にあたる誠司さんは、以前にも増して暗い雰囲気をまとっている。少しテカリがある顔で、髭が伸びている。顔洗ってくればいいのに。
前だったら間を取り持ってくれた人がいなくて、二人でいるリビングは静かすぎた。
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