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友達
「大丈夫か?」
席に着くと、和樹は開口一番そう言った。
学校帰りに寄るバーガー店は適度に騒がしく、俺が私服なこと以外は普段通りでほっとした。
俺は話した。母さんが死んで家の中が静かなこと、誠司さんとの会話、祖父母と会ったこと。どうすべきか考えられないこと。
「さすがにタケでも悩むんだな」
「悩むよ、それは」
「お前母子家庭のせいか、クラスで一人だけ大人みたいな顔してるから」
「そうか?」
冷めたポテトを口へと放り込む。母子家庭、か。今は父子家庭なんだろうか。ピンとこない。
「和樹ならどうする?」
「祖父母と、今の親父さんとどっちと一緒に住むかってこと?」
改めて問われると違和感があった。俺が悩んでいるのはそこなんだろうか。でも他に言いようもなくて頷く。
「うーん」と和樹はうなりだした。なんでも茶化さず受け止めて、真剣に考えてくれるのがこいつのいいところだ。
「どっちも打ち解けてないなら、金銭的なこと考えて祖父母の家もアリかな、と思うけど。ウェルカムモードだし、数年我慢して一人暮らしさせてもらえばいいじゃん」
「赤の他人同然なのに、借りを作るのがなぁ」
「今の親父さんって改めてどんな人だっけ」
「公務員で仕事が忙しくて……わからないことが多すぎるな。生活リズム違うし、とりあえず料理はできない」
「和樹ができすぎなんだって」
前にもらった卵焼きうまかったし、と和樹はコーラをすする。
「うーん……」
「迷うってことは、親父さんに未練があるんじゃね?」
「未練って。別れた恋人みたいに言うなよ」
「こういう時、大人なら出て行けるのにな。俺達まだ子供だからな……っと」
和樹の視線の先には、店内の時計があった。
「悪い、俺塾だわ」
「ん、分かった。つきあわせてごめんな」
「愚痴とか、言いたくなったら全然OKだから。LIMEでも送って」
「サンキュ」
和樹は去った。また学校で会えるけど、その時俺はクラスメイトの中で「母親を亡くしたかわいそうな奴」だ。気が重い。
客が増えてきて、俺は店を出た。
なんとなく歩きたい気分で、1駅前で降りて歩くことにした。
川沿いの道に出ると夜景が綺麗だった。仕事帰りの人、カップルや走る人……皆自分のことに集中している。
家に帰ったら誠司さんがいるだろうか。仕事が不規則でわからない。
帰りたくない。
川を渡る途中、橋の欄干にもたれて街の灯りを眺めた。俺以外は皆キラキラしているように見えた。時間とともにだんだん人通りが少なくなっていく。
母さんは昔からうちの太陽だった。父さんが亡くなってからは特に。山や川、自然と触れ合うのが好きな人だった。海も何度も行った。
「仕事が忙しいから、こういう時間を気にしなくていいところ好きなんだよね」と言っていた。家事もできることはやって、支え合った。
尊敬していた。頼りにしていた。
もういない。
どのくらいそこにいただろうか。
唐突に目の前が真っ白になった。強い光の向こうに、警察官の姿があった。
「君、高校生かな? ちょっと話いい?」
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