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「昨日はすみませんでした。迷惑かけて」
パスタが半分に減った頃、皿を見つめたまま俺は話しだした。
「……いや、反省しているならいいんだ」
「昨日、祖父母の家に行ってきました」
誠司さんが息をのんだ。
「俺には少し、あの人たちは合わないみたいです。でも誠司さんに『好きにしたらいい』って言われてもわかんなくて、友達と会ったり考え事してたらあんな時間に……」
「そうか」
吐き出したのに喉がつまる感じがして、俺は黙った。
誠司さんは席を立ち、冷蔵庫を開けて牛乳を注いでくれた。「成長期なんだから」と母さんが買ってきてくれたやつ。今日が賞味期限だった。
飲み干して、誠司さんは語り出した。
「ずっと、後悔していた。火葬場でスイッチを君に押させたこと。家族になる覚悟をしていたのに、足りなかった。
申し訳なかった」
大の大人が頭を下げるのを初めて見た。
「帰宅した後も、君は落ち着いていて、話す時も目があまりにも楓さんにそっくりで……君を直視できなかった」
誠司さんは、ぽつりぽつりと胸の内を話す。
「結婚して、君たちの家族にしてもらえて嬉しかった。面倒を見るつもりでいたのに、武春君は勉強も家のこともできて、俺はここにふさわしい大人なのか、ずっと考えてた。
楓さんがいなくなって、本当なら俺が君を支えなきゃいけないのに、武春君と遺されて動揺した。
自信が、なかったんだ」
「大人なのに?」
「大人は君が思うほど大人じゃない。……少なくとも俺は。
トースト一つ、上手く焼くこともできないし、ずっと機嫌よくもいられない。疲れているからと自分に言い訳をして、君と親子になる時間を避けた。そのくせ、君がどこかに行ってしまうと思うと寂しくて、昨夜は八つ当たりみたいになってしまった。
後輩に話したら『それは、自分の家族だと思っているからですよ』って言われたよ」
すまなかった、と消え入りそうな声がした。
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