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男と少年(一)
利明は、今し方通り過ぎてきた風景を思い出しつつ、駆け出そうとした。
ところが、すぐに足を止めることになる。新たな姿が目に入ったからだ。
(なんだ? まあまあ年嵩の御仁と……もう一人は、まだ子どもじゃないか)
利明が訝しんでいる間に、白い異形に追いついた男と少年はさっと分かれて、それの行く手を阻んだ。
正面で対峙する男が、仁王立ちで何かを唱え始める。異形は、視えぬものに遮られているのか、彼に襲いかかろうとするも上手くいかないようだった。
男に手を出すことを諦めたらしい異形は、向きを変えて少年に近づいた。その体格差は、いくら骨と皮だけの見てくれとはいえ、異形のほうに分があると思ってしまう。
ところが、少年は素早かった。日頃からよく鍛えているのだろう。少しも物怖じせず、相手の一歩先をいく。
「そんなおっそい攻撃じゃ、いつまで経っても当たんねえよ」
そう言う少年の口元は笑んでいて、手には短刀――この子のほうが物騒だな、と利明は早々に思い直した。
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