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「え?わ、私がですか?」
「ああ、まだ選考中だから内密に。参考までに意向を聞かせてほしい」
「……はい、」
灰原さんと話をした翌日のことだ。アナウンス部長に呼び出され、『はぎおび』後継番組のメインキャスター就任を打診された。
大変ありがたいお話だし、元々こちらから日中番組への担当替えを希望しようとしていたところだ。当然よろしくお願いします、と答えなければ……そう思ったが何故だか直ぐに言葉が出てこない。
「まだ候補として出ているだけだから断ってもらっても構わない。ただ、久米を動かすなら『Night News』の後任も探さないといけないからな……」
一週間を目処に意向を聞かせてほしいと続けた部長に頷いた。願ってもない話なのに、どうしてか。『Night News』を離れることを現実的に考えると、“嬉しい”よりも“寂しさ”が大きかった。
✳︎
「波音の好きなようにしたらいいよ」
「……」
土曜日。碧央くんに相談すれば当たり前のようにそう返された。
優しい言葉だけど、なんだか真剣に返してくれてないようでムッとしてしまう。
「そういうわけにはいかないよ。まだ気が早いかもしれないけど、これから先、結婚とか考えるなら日中の番組の方が生活しやすいだろうし」
「それは今までどおり家事分担すれば……」
「……子どもは?今の不規則な生活で子ども育てられると思う?」
「それは、……」
口籠る碧央くんにふぅ、とため息をつく。
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