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「碧央くん、もう今日は帰るだけでしょ?」
「ん、そうだけど」
「今日の朝、ハンバーグ作っておいたから温めて晩御飯に食べてね?」
「……ハンバーグ?」
「うん、碧央くん好きなやつ。中にチーズ入れたデミグラスソースのやつ」
ぱああ、と表情を明るくする碧央くんが子供みたいで可愛い。そして、まんまと合コンに対する不機嫌さが消えかけてるのも簡単で可愛い。
よし、あと一押し……と、彼の手を握りしめた私は、綺麗な二重に縁取られた双眼を上目遣いで覗き込んだ。
「碧央くんは何も心配せず、私の帰りを待っててね?」
「……うん」
「『Night News』の放送終わったらすぐ帰るからね?」
「ん、待ってる……」
ぽけーっと惚けて頷いた碧央くんに心の中でガッツポーズ。これにて一件落着。碧央くんのいじけモード解除ミッション完了!
「じゃ、私はこれから事前収録だから。お疲れ様です、朝賀さん!」
「あ、……はお」
瞬時に後輩モードに切り替えて。寂しそうな声を背中で受けながらカフェスペースを後にする。
本当は私だってもう少し碧央くんとお話ししたいところだけど、一応会社だ。
このまま機嫌をとり続けたら碧央くんが暴走しかねないし、ここは早めに退散するのが正解だろう。
脳裏に浮かぶのは、子犬のように潤んだ瞳でこちらを見つめる碧央くんの顔。それは、全国の視聴者が見慣れた爽やかスマイルとは程遠い、私だけが知る彼の表情だ。
そんな表情にさせられるのは私だけで、そんな表情を笑顔に変えるのも私だけで。
それなのに、放置しちゃってごめんね、碧央くん。埋め合わせは週末に必ずするからね?
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