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来たる土曜日。時刻は午後7時。
「みなさーん!久米ちゃん来ましたよ〜」
「うおっ!本物の久米アナだ〜」
「……」
一体全体、これはどういう状況か。
ダイニングバーの個室に入れば、ガタイのいい男性4人といつもよりも着飾った先輩女子社員3人が向かい合って座っていた。
引き戸を開いたまま呆然とする私に「久米ちゃん、こっちこっち!」と手を引いて掘り炬燵に招いたのは、先ほど泣きそうな声で電話してきた灰原さんだ。
「……灰原さん、これどういうことですか?」
「ごっめ〜ん!そんな怖い顔しないで、久米ちゃん」
形式的に謝る彼女に理解が追いつかず、未だ困惑したまま何故私がここに来ることになったのかを振り返る。
今日は私も碧央くんも帯番組が休みの土曜日なのだが、たまたま記者会見の司会仕事が入っていた彼は朝から家を空けていた。
疲れて帰ってくるであろう彼の帰宅に向けて、いつもより手の込んだ晩御飯を作ろうとキッチンに立ったタイミングで一本の電話が私のスマホを揺らす。
画面に表示されたのは【灰原夏美】の文字。スマホを耳に当てると、
「久米ちゃん、ちょっと悩み聞いて欲しいんだけど。よかったら今から飲みにいかない?」
——と、悲しげな声色が電波に乗って送られる。
只ならぬ雰囲気に二つ返事で「すぐ行きます」と伝えて、指定されたお店に駆けつけた現在。
目の前の彼女には微塵も悲壮感はなく、むしろ踊り出しそうなほどにテンションが高い。
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