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「この間、喧嘩した時には『辞めればいいのに』とまで言ってたのに」
「……うん。でも、言ったでしょ?波音がアナウンサーとして頑張っている姿も見守って行きたいって」
「ん、そうだけど……」
「俺のせいで波音にやりたいこと我慢されるのは嫌だ。でも、波音が無理をして身体を壊したりするのはもっと嫌だ」
真剣な表情で私の顔を覗き込む彼が彼らしくてホッとする。『波音の好きなようにしたらいいよ』っていうのは考えるのを放棄したわけではないと分かった。
「波音にとって今、何が大切なのかによって答えは変わるし、その大切なものって時間の流れによって変わっていく」
「うん……」
「もちろん未来のために事前に準備するのも必要なことかもしれないけど、波音には“都合”より“気持ち”を優先してほしいかな、俺は」
「……」
碧央くんは決して『Night News』に残ればいい、とか断定的なことは言わなかった。それは、都合を優先したいというのも彼の言う“気持ち”に含まれるからだろう。
更に彼に尋ねようと口を開いたが……、今尋ねるべきことは何もなくて口を閉じた。
碧央くんは答えをくれない。答えは私の中にしかないから。
「ありがとう、碧央くん。自分がどうしたいのか、もう少し考えてみる」
「うん、仕事の内容とか聞きたいことあったらいつでも聞いて?」
ふわりと笑う彼は、優しい上司の顔と私に甘い彼氏の顔を合わせ持つ。
この人となら、どんな問題が起こっても話し合いながら解決していけるんだろうな……と、“いつか”がより楽しみになった。
大好きな人との未来を疑わずにいられる。それは、とても幸せなことだ。
しかし、その幸せは不変ではなく。
——究極の不条理によっていとも簡単に壊されることもある。
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