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私の勇気の一声を遮った灰原さんは、他のメンバーに隠れて尚も私に両手を合わせる。
「清貫選手以外の他のメンバーも今をときめく野球選手ばっかなの!お願い、久米ちゃん!先輩を助けると思って1次会だけでも!」
「……でも、」
しつこく私への説得を試みる灰原さんと、しつこく渋る私の攻防戦。
どんな手を使われても断固拒否を決め込むつもりだったが、"押しが強い女"の本領を発揮したこの後の灰原さんは強かった。
「……いいの?今帰ったら、次に仕事で会ったとき絶対に気まずいわよ」
「……っ!」
急に低くドスの効いた声で告げた灰原さんに目を開く。
「私はいいけど。バラエティ担当だからほぼ会うことないしね?でも久米ちゃんはさぁ?
——スポーツニュースに力入れてる『Night News』の看板アナとして如何なものかしらぁ?」
ず、ずるい。ここで仕事を出してくるとは……っ!
いつもは優しい灰原さんにもこんな悪どい面があるとは驚きだ。
目的のためには手段を選ばない、時にはこういう押しの強さもトップアナには必要要素なのかもしれない。——と、見習うべきか、反面教師とするべきか。
ムムム、と顔を顰めて対抗するが、カエルを睨む蛇のように……、基、欲のなき野うさぎを睨む獰猛なライオンのように見返され、流石の私も心が折れた。
「……じゃあ、一次会だけ。『異業種交流会』ということなら」
「やった!ありがと、久米ちん!」
「……」
肉食系女子の粘りがちである、恐るべし。
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