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爽快な表情で抱きつかれたのは少々癪だが、ここまで言われても拒否できるほど強い人間ではない。……というか、これでも頑張って拒否した方だと自分を褒めてあげたいくらいだ。
確かに灰原さんが言うとおり、仕事上、アナウンサーとスポーツ選手は絡む機会が多い。
ここで断固拒否して帰るのも逆に意識しすぎているようで格好が悪いし、恋愛という要素を除けばこういった呑み会の場でパイプを作っておくのは悪いことではない。——と、なんとか自分の行動を正当化して気持ちを切り替える。
……よし、これはあくまでも仕事のためのパイプ作り!そして、先輩社員との円滑な関係性を守るためのミッション!大丈夫、ちゃんと免罪符になるはず!
碧央くんが知れば一蹴されそうな粗末な理由を羅列して。
不本意ながら2時間半飲み放題コース(プレモル付き)の宴の幕が開けた。
*
「はおちゃん、何飲んでるの?」
「……ペシェソーダです」
「へえ?カクテルちびちび飲んでるの、なんかイメージどおり。はおちゃんって、生で見ても小動物みたいで本当可愛いよね」
「あはは〜、恐れ入ります〜……」
どストレートな口説き文句に曖昧な笑みを浮かべて気のなさを演出するが、細かいことはあまり気にならないらしい彼には私の機微な感情表現など伝わるはずもない。
流石は豪快なスイングに定評がある、今一番人気のスラッガーだ。自分は誰からも好かれているという絶対的自信がそうさせるのか、私との距離の詰め方に容赦がない。
これでも一応、初対面の人とでも比較的当たり障りなく話せるタイプだと自覚している。
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