02.厚顔グリズリー

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しかし、話せると言っても人によって得意不得意の判定基準は設けていて、清貫さんは……どちらかといえば不得意なタイプ。 「学生時代は小学校の時からエースで4番だったんだけどさぁ、プロになるってタイミングで投打どちらかに絞れって言われてさぁ」 「へぇ、それは迷われますね」 「そうそう、かなり迷った挙句、打つ方に絞ったんだけど。この間監督から二刀流でもいけたかもなって言われて、すげぇ腹たったわ」 「そうなんですか、流石です」 インタビュー仕事の癖が抜けず、つい相槌を打ってしまう自分が恨めしい。打ち損じを狙った勢いのない超スローボールを投げているつもりなのに、次から次へと打ち返されるのは彼の自慢話。 インタビュー時ならそこそこ乗り気で聞けたのかもしれないが——存外、私は野球に興味がない。 さっきまで"仕事のためのパイプ作り"と自分に言い聞かせていたのに、私もまだまだ甘ちゃんだ。 休日は休日だ。仕事のことなど考えたくない。 ……結果、その感情を捨てきれず、30秒に一回は事態に巻き込んだ灰原さんを睨んでいる。当の本人はついにプレモルを解禁して楽しそうだけど。 「はおちゃんはさ、休みの日とか何やってんの?俺はゴルフとかよく行くんだけど、今度一緒に行こうよ。サイズ教えてくれたらゴルフウェアとかも買っておいてあげるから」 はおちゃんって呼ぶのイヤ。碧央くん以外は久米ちゃんって呼ぶから清貫さんもそうして欲しい。 こちらに会話のボールを投げたと見せかけて自分の話に持っていくのもイヤ。野球ならボークという反則行為だ。
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