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「朝賀さん、公私混同はダメなんじゃないですか?」
碧央くんの頬を両手で潰して、ただの先輩後輩時代の呼び方で注意してみる。
でも、きょとんと目を丸めた碧央くんはすぐにフッと微笑んで、こちらが瞬きをした隙にあっという間に私の両手首を片手でまとめてしまった。
「……久米の方こそ、もう少し共演者とは線引かないと。厄介事に巻き込まれるよ?」
「……っ、」
今の今まで甘えた全開だったくせに。私の真似をして、恋人になる前の先輩口調で吐き捨てる。
低くよく響く落ち着いた声は完璧な滑舌で、耳にするりと馴染んで溶けて。
ずるい、……こういうギャップがいつも私を翻弄する。
頼れる先輩、尊敬する先輩。でも、家では甘えん坊で構ってちゃんな可愛い年上彼氏。
どっちも好きな私は成す術なし。落ちて落ちて、彼の魅力に陶酔するしかないのだ。
「波音、俺は心配なんだよ。俺のいない現場でそんなに可愛くて……今までどうやって生きてきたの?心配すぎて俺、全部の現場着いて行きそう」
「碧央くんは私のこと買い被りすぎだよ」
「そんなことないよ?清貫だって、確実に波音のこと狙ってるから。グリズリーの捕食対象だよ、確実に」
「グリズリー……」
いきなり出てきた熊の名前に一瞬理解が遅れたが、先日会った清貫さんのガッチリした体格を思い出して、「中々いい比喩だな」とちょっと笑ってしまった。
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