02.厚顔グリズリー

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02.厚顔グリズリー

「く〜めちゃん!」 バラエティー番組の収録を終えた15時頃。アナウンス室の自席で束の間のコーヒーブレイクを楽しんでいれば、後方から名前を呼ばれると同時、背中をポンっと叩かれた。 「お疲れ様です。灰原さん」 「お疲れ様。さっきちょっと収録見てたけど、芸人さんに弄られまくってたわねぇ」 「そうなんです!ひどいんです!」 わざとムッと剥れて見せる私に「いじってもちゃんと打ち返してきてくれる久米ちゃんの人柄によるものねぇ」と、笑いながら頭をポンポンと撫でてくれるのは入社6年目の灰原夏美(はいばらなつみ)アナ。 灰原さんは明るい性格と芸人さん顔まけのノリの良さが人気で、多くのバラエティー番組で芸人MCさんのアシスタントを努めている、いわばバラエティー番組のエキスパート。 入社直後に出演したバラエティー番組で早速芸人さんからの洗礼を受けて半泣きだった私に『弄られたら"おいしい"と思え』という格言をくれた、素晴らしい先輩だ。 「灰原さんもコーヒー飲みますか?」 「ううん、すぐに次の収録あるから」 「相変わらず引っ張りだこですね」 「うふふ〜、久米ちゃんにポジション奪われないように必死よぉ〜」 ニタァっと笑いながら空席だった隣の席に座った灰原さん。 実際、いくつか灰原さんが務めるはずだったお仕事のおこぼれを貰っている手前、なんと返していいのか分からず、「あはは、私なんて灰原さんの足元にも及びませんので」と、とりあえず曖昧な笑みを浮かべておいた。
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