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私は別におとなしいタイプと言うわけではない。ただ、ちょっとしたコンプレックスがあった。声が普通の女子より少し低いのだ。
夏美が女の子らしい可愛い声だったから余計に声の低さを気にしていた。
親戚のおじさんや従兄弟たちに
「お?姉妹かと思ったら上はお兄ちゃんみたいだな!」
と無神経なからかいをされてからますます人前で話すのが苦手になった。
だからなるべく人前では話さないようにしていた。
だけど、自分より遥かに年下の男の子に無愛想にするわけにもいかず、歩きながらポツポツと会話をしていた。
「……汐里ちゃんと話すのがすごく楽」
一年ほど経って私が6年生、真人君が二年生になった頃、真人君がポツリとこぼした。
「え?」
「汐里ちゃんは他の女の子とぜんぜん違う。うるさくないし、頭がいいし、かっこいい」
「…………それはどうも。」
どうやら二年生になってから早熟な同級生の女の子とたちはイケメンの真人君を巡って「彼女」の座を争いだしているらしい。
6年生のわたしに対してさえも、果敢に突っかかってきては
「おばさんは真人君と仲良くしないで!」と言ってくる猛者もいた。
齢11歳でおばさんかよ!!って心のなかで盛大にツッコんだ。
「汐里ちゃんとは来年からは一緒に学校に行けないんだね」
真人君は気のせいか震える声で呟く。
「うん、真人君も来年は三年生だから下の子たちのお世話してあげてね」
「……うん。頑張る。汐里ちゃんは中学受験しないの?」
「あー、そうだね。このまま公立中に行くよ」
「僕はたぶん私立中学に行くよ」
「そっか。頑張ってね」
「汐里ちゃんと同じ中学に行けるなら公立にしたけど、僕が中学生になる頃は汐里ちゃん、高校生だもんね」
「そうだね」
「僕が高校生になる頃は、汐里ちゃんは大学生だ。僕が大学生になったら汐里ちゃんは『社会人』になるんだってお母さんが言ってた」
「そうだねぇ。順調にいけばね?もしかして浪人とかしちゃうかもしれないけど」
「ローニン?」
「うん、大学に入る時に不合格になってもう一年勉強すること」
「そうなれば汐里ちゃんと大学生になれる?」
「………いや、そうならないように頑張るけど。うちには下に夏美もいるしね」
「そっか……追いつけないかぁ」
真人君があまりにもガッカリするから、
「同じ会社に入れればいいね」と笑って言った。
「同じ会社?」
「うん、同じ会社ならずーっといっしょじゃない?」
ぱぁっと急に笑顔になった真人君のこと。私は多分忘れない。
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