追いつけない

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「加賀美さん、今年はOJTお願いね」  そうかそんな年齢になったんだな、と思った。  入社して5年目。27歳になっていた。 一人暮らしもすっかり慣れた。  実家には一度も帰っていない。夏美と元カレの電話番号はブロックしているし、私の新しい携帯の番号も両親にすら教えていない。  母とメールで薄っすら繋がっているだけだ。  夏美と元カレがあのあとどうなったかなんて知らないし、なんなら産まれた子供の名前も性別も知らない。たぶんずっと知らないだろう。  入社式を終え、全体の研修会を終えた新入社員が各部署に挨拶に回っている。  うちの部署にやってきた新入社員もやってきたらしいが、私は電話でお客様の対応をしていて部屋の入り口に背を向けていた。  しかしながら 「失礼します!」と入ってきた男性の声で部署の女性社員が明らかにざわめいたのがわかった。  電話を終え、席の後ろに立っている新入社員に向き合い 「おまたせしてすみません。OJTを担当する加賀美 汐里といいます。よろしくお願いいたします」 「汐里……ちゃん?」 「え?」  そこに立っていたのは、整った顔立ちの背の高い美しい男だった。 「………え?えっと……」  今朝ほど渡された新入社員の資料の名前を確認した。 「大倉真人」と書いてあるのを見て、一瞬であの小さな新入生を思い出した。 「真人……くん?え?えーーー?どうして?」 「こっちこそだよ。なんで汐里ちゃん、ここにいるの?」 「ここの社員だから。真人君もうちに入ったの?」 「うん、いや、はい。すみません。馴れ馴れしくしちゃって。」 「あ、うん。大丈夫。これから会社では気を付けてくれれば。それにしても懐かしいね。みなさんお元気?」 「はい。お陰様で。………汐里ちゃ……加賀美さんは…って…旧性で仕事してるの?」 「旧姓?」 「あ、いや、その。結婚して……子どももいるんですよね?」 「は?いや、ずーっと一人だけど。これまでもたぶんこの先も」 「え?」 「は?」
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