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 夏だからどうということはない。生まれたのは冬だし人生で一番嬉しいプレゼントを貰ったのはクリスマスだったし初めての彼女ができたのも童貞を卒業したのも秋だった。  だから夏と聞いて思い出すのは10年前の川開き祭りぐらいしかない。高校最後の夏祭り、だったから印象深いわけじゃない。でもまあ、あの川開き祭りがなかったら毎年夏に期待することもなかったんだろうなとは思う。  そんなことをまだ4月だというのに考えてしまったのは米谷課長が不意に「阿部君今年の川開きって3日間やんだっちゃね」と俺に言ってきたからだ。俺は回覧物に“阿部”の判子を押しながら「そうなんすか」と素っ気なく応じた。 「今年で100回なんだって」 「へえ」 「知らないの?毎年行ってっちゃ」 「まあ、はい」  石巻の夏の伝統行事、川開き祭り。まあどこにでもある地元の夏祭りだ。祖母が「昔もここは賑やかだったんだけど」と見る度に嘆く大通りがこの時期ばかりは人で溢れかえる。乗客数が低迷の一途を辿るローカル線も満員になる。
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