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 足元が見えづらくなってきた頃男の子はケミカルライトを折った。紫色に光るそれを腕に着けて歩いていた。「そろそろ花火始まるから上行こう」と言って僕を連れて行ったのは長い石段の前だった。 「浴衣だと上るのしんどいよね」  まあ確かにそうかもなあなどと思いながら足を踏み出そうとすると体がふわりと浮いた。声が出そうになった。横抱きにされていることに気が付いてバランスを取ろうと慌てて男の子の首の後ろに腕を回す。自分のその行為にさらに慌てた。 「部活でもこういうことしてんだ」  そう言って石段を上り始める男の子。一体どんな部活だと思っていたら「ラグビー部でさ、サンドウィッチマンが先輩」と彼は言った。「はかはかする」と言いつつも結局石段の三分の二は上った。最後の方は僕が彼の肩を叩いて下ろしてもらった。  山の上の神社に続く道には既に何人かが並んで立っていた。眼下には公園と北上川が見える。胸の高さほどの柵に男の子が座り僕を抱えて隣に座らせた。男の子の左腕で光るケミカルライトを眺めていると「あのさ」と声がした。顔を上げると男の子がこちらをじっと見ていた。バレたか?と思った。男だって気付かれちゃったかな、と。彼が続けて口にした言葉は意外なものだった。
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