9

1/9
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ

9

 始発駅から乗客が多かったようで、俺の自宅の最寄り駅から乗った時点でいつもより混んでいた。流石は川開き祭り。ロングシートに空いたひとり分あるかないかの隙間に、「すみません」と声をかけながら座った。  川開き祭りは混む。本当に混む。普段どこにこれだけの人たちが隠れていたんだろうと思ってしまうぐらいには混む。駐車場も空いていないだろうから車で向かうのは諦めた。向かいのロングシートに浴衣を着た中学生ぐらいの子どもが座っている。白地に赤い大きな花の模様。見渡せば浴衣姿の人がぽつぽつと見える。赤い浴衣を探してしまうのはもはや癖だ。  前谷地駅を経由して佳景山駅に着き列車のドアが開くとまた人が乗り込んできた。スマートフォンを片手に持ったハカリ君が見えた。俺が右手を上げると、キョロキョロしていたハカリ君と目が合った。仕事の時と印象がさほど変わらない白いポロシャツ。休みの日に会うといつもこれだ。 「やっぱり混んでますね」 「川開きだからね」  石巻駅でほとんどの乗客が下車した。冷房の効いた車内から熱気に包まれたホームに出る。改札を抜けた瞬間に見える屋台のテントと待ち合わせの人々。「川開き久しぶりです」とハカリ君が言いながら大通りに向かった。 「ゴウさんは来てましたか」 「うん。毎年」
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!