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「いや、変っていうか、俺だったらやんないなって思ってる。俺あんまりファッションってわかんないし」
ハカリ君が笑った。面白いことを言ったつもりはなかった。
「僕、今日どっちの格好で行こうかちょっと迷ったんです」
「どっちでもいいよ」
「ゴウさんならそう言うと思いました」
花火を見るためにやって来た人々が次第に増えていく。スマートフォンで時間を確認した。あと数分で始まるはずだ。
「来年も会えるかな」
不意にハカリ君が呟いた。俺は隣の彼の顔を見遣った。ハカリ君は遠くに見える北上川を見つめていた。
「会えるでしょ」
俺が言うとハカリ君は少し驚いたような顔でこちらを見た。
「さっきも言ったじゃん。来年も行こうよ」
ハカリ君が柵に添えた手を丸めた。涼しくなってきたせいか鼻を啜った。
「毎年来なくてごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「来年は行くんで」
「だからそう言ってんじゃん」
花火が上がる。目の高さよりも少し下に見えた。今年は風の具合も丁度良く、煙もすぐに流れていくので見やすい。アナウンスが流れているがここだとよく聞き取れない。ハカリ君は花火が終わるまで俺の方を少しも向かなかった。そんなに花火見たかったんだ、と俺は思った。
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