9

6/9
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
「いや、変っていうか、俺だったらやんないなって思ってる。俺あんまりファッションってわかんないし」  ハカリ君が笑った。面白いことを言ったつもりはなかった。 「僕、今日どっちの格好で行こうかちょっと迷ったんです」 「どっちでもいいよ」 「ゴウさんならそう言うと思いました」  花火を見るためにやって来た人々が次第に増えていく。スマートフォンで時間を確認した。あと数分で始まるはずだ。 「来年も会えるかな」  不意にハカリ君が呟いた。俺は隣の彼の顔を見遣った。ハカリ君は遠くに見える北上川を見つめていた。 「会えるでしょ」  俺が言うとハカリ君は少し驚いたような顔でこちらを見た。 「さっきも言ったじゃん。来年も行こうよ」  ハカリ君が柵に添えた手を丸めた。涼しくなってきたせいか鼻を啜った。 「毎年来なくてごめんなさい」 「なんで謝るの?」 「来年は行くんで」 「だからそう言ってんじゃん」  花火が上がる。目の高さよりも少し下に見えた。今年は風の具合も丁度良く、煙もすぐに流れていくので見やすい。アナウンスが流れているがここだとよく聞き取れない。ハカリ君は花火が終わるまで俺の方を少しも向かなかった。そんなに花火見たかったんだ、と俺は思った。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!