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帰りの最終列車は21時台だ。田舎じゃよくある話である。花火を見終わった俺たちは鉄道で帰ることをほぼ諦めていた。人混みが解消されるまで公園の柵に腰掛けたままぼんやりしていた。右の肘が蚊に刺されて痒くなってきた頃にノロノロとした足取りで駅に戻った。駅のロータリーに停まったタクシーを拾って後部座席に乗った。エアコンの利いた車内で汗が冷えてぼんやりしていた頭が少しスッキリしてきた。
「あ、そうだ忘れる所だった」
俺は言ってポケットから小さな箱を出してハカリ君に渡した。ハカリ君は驚いたように目を丸くし、申し訳なさそうに頭を掻きながら少しだけ目を逸らし、それからまた驚いたような顔をした。
「これってまさか」
「まさか?」
「クジラの歯ですか」
「そうだよ」
ああー、と呟くハカリ君。俺が首を傾げると彼は胸ポケットから全く同じ箱を出した。
「ゴウさんにあげようと思って」
「ほんとに?ありがとう」
「ダブっちゃいましたね」
俺はハカリ君から箱を受け取り中を見た。確かに同じストラップだ。
「でもストラップの紐は色違うしいいんじゃない」と俺は頷き「大切にするね」と言いつつ財布に着けた。ハカリ君は微妙な表情で俺の渡した箱を開けた。
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