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 アタシはそれを――これまで何度味わって来たんだろうか? 日常のなんて事のない一部のはずなのに、たまに意識して考えてしまう。  それは真面目に考えれば不思議な感覚だ。  たった今まで一日を終え、正にベッドで寝ようとしていたはずなのに。気が付けばアタシは朝にいて、もっと寝たいと欲望と現実の狭間を彷徨っている。ついさっきまで寝れないと無理矢理に瞼を押し付けていたのに。  ――今じゃ目を瞑り夢現。  その最中、寝返りを打ち横を向いたアタシは微かに目を開いた。ボヤけ、半分瞼に覆われた視界の中――隣を見る。  でもそこには誰もいなかった。いるはずの君はいなくて、ぽっかり空いた空間がそこには広がっている。  アタシは思わず眠気を振り払い目を開くと、絡み付く朝の怠惰をも無視しながら体を起こした。  いつもの寝室。いつもの二人にしては少し小さめのベッド。そしていつもの朝。なのにあの日々は夢だったと言うように、アタシは一人ぼっち。隣を見遣り並んだ枕へ手を伸ばしてみるが、掌から伝わるのは無人の冷たさ。そのまま撫でるようにシーツへと手を滑らせてみても隣は冷たい。  アタシはベッドを降りると隣のダイニングキッチンへと向かった。  キッチンで珈琲を入れようと準備を進める背中――そこには君がいた。その瞬間、安堵とも違う何だか心が温かく満たされるような――そう温かな珈琲を飲んだ後に体中へ広がる熱のように、じっとしていられない感覚が広がった。  気が付けば歩き出していてその背中の直ぐ後ろまで行くと手を回し、君を抱き締めた。  何度も味わった温もり、何度も味わった匂い、何度も味わったこの感触。  ――何度味わっても足りない。
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