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「おはよう」 「おはよう。起きたんだ。もう少し寝てるかと思ったんだけど」 「眠たかったけど、隣に君がいなかったから……」 「ビックリした?」  君は少し笑い交りにそう言うとアタシの方へ振り向いた。 「寝惚けてたから少しだけだけど」 「大丈夫。ずっと一緒ってあの時約束したじゃん」 「そうだね」  言葉の後、アタシは少し背伸びをして唇を触れ合わせた。短く、軽い、一回。じゃ足りなくてもう一回。 「君も飲む?」 「うん」  それから珈琲を淹れるまでアタシはずっと君を抱き締めていた。君越しに香る珈琲は朝の匂い。アタシはブラックで、君は少しミルク多めの微糖。 「今日は天気も良いし、上に行こうか」 「そうだね」  君の提案でアタシ達はそれぞれの珈琲を手に階段で屋上へと上がった。  小さな屋上にはテーブルとブランコがひとつ。と言っても二人用ベンチがぶら下ったモノで、吊るされたベンチと言った方がいいのかもしれない。  ここは二人のお気に入りの場所。外に出ると朝の新鮮な空気が風と共にアタシ達を包み込む。周囲にぐるりと広がる森と疎らな雲の空は今日も穏やかで、雄大。大自然はいつでも安らぎをくれる。  そんな場所でアタシ達はベンチに腰を下ろした。アタシは彼に凭れかかり、彼は手を回し肩を抱く。  朝のベッドのような温もりと珈琲の香り。そして何よりも大きくアタシ達を包み込む大自然。  こうして過ごす朝がアタシは好きだ。  ――だからいつまでもこの幸せが続くもんだと勝手に思い込んでいた。  一歩また一歩とアタシは着実に山道を進んでいた。  普段から狩りで森を動き回っていたお陰で、あの日以来、何もしてないのにも関わらず体力と力は十分。 「はぁ……。はぁ……」  でも少し軽くなったとは言えその重さを背負いながら長時間森を歩き続け、アタシは息を荒げ始めていた。  だけど止まることは無く、アタシはただ只管に足を進め続ける。
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