椎名くんは笑わない

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 私は軽く驚いた。 「え、初笑いまだなんだ? すごいね。五日も笑わずに生きられるなんて」 「人としてどうかと思うよな」 「そこまでは思わないけど、どうやって笑いを回避してきたのか不思議ではある。お笑い番組とか元日に死ぬほどやってたじゃん」 「正月は『孤独のおっさんグルメ』一気見してたから」 『孤独のおっさんグルメ』とは、中年のサラリーマンが毎回見知らぬ土地でただ昼食を食べるという深夜にやっている異色のグルメ番組だ。  小学生であの番組を見ているやつが私の他にもいたとは。しかもお正月に一気見だと? 渋すぎでしょ、椎名くん。 「そろそろ笑っておかないと、ヤバくね?」 「いいんじゃないの、別に」 「いや、さすがにちょっと心配になるっていうか」 「人として?」 「っていうかさ、もしつまらないことで笑って後悔したらどうしようっていう。せっかくだったら腹抱えて笑うくらいの面白いことで初めてを飾りたい」  椎名くんは真面目な顔で私をじっと見つめた。 「なんか面白いことやってくんない? 藤川」  五日も笑ってない男子を笑らせろだと?  ハードル高えわ。
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