32人が本棚に入れています
本棚に追加
なんとなく俯いたまま下駄箱までやってきた。
すると私は、何故かそこに椎名くんの背中を発見した。
今頃は体育館の裏にいると思っていたのに。
「椎名くん? どうした」
「うん」
椎名くんは振り向く。いつもの真顔だ。
「よく考えたらさ、預言者の言葉を聞くまでもなく、靴下のことは気づいていたわけで。それならもうわざわざ聞きにいく必要もないかなって」
「行かなかったの⁉︎ もう、何やってんの! 通学団下校が始まっちゃうよ?」
「うん。だからさ」
椎名くんは上履きを脱いで下駄箱に戻す。彼の足元は色違いの靴下だ。
「おれの靴下がこんなんでも平気でいられる女子と、俺はいたいんだよ」
何だそれ。鼻の下がむず痒い。
私はわざと雑に上履きを脱いで下駄箱の蓋を開けた。
「あーあ。そんなんじゃ、大人になっても彼女なんかできないよ?」
「別にいいよ」
椎名くんは私を見てフッと笑った。
「おれには、藤川がいるし」
「……は?」
下駄箱から取り出しかけた運動靴を危うく落としそうになる。
「私ゃ別に椎名くんの彼女じゃないんですけどね」
「もちろんそうなんだけど、藤川といると楽しいしさ」
やけに鼻の頭が焼ける。おのれ夕陽め。熱いからとっとと沈んでくれ。
眩しくて椎名くんの方が見れやしない。
お天道様に悪態をつきながら、私は椎名くんと並んで校舎を出た。
すると。
「あれ? 椎名くん?」
背後から、女の子の声がした。
最初のコメントを投稿しよう!