椎名くんは譲らない

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 それから数日後の昼休み。  各教室の廊下に運ばれてきたナポリタンの入った食缶を取りに行った給食係の私は、そこで隣のクラスの佐藤さんとバッタリ出会った。 「あっ、藤川さん。今日はナポリタンだね」 「うん」 「いい匂い。そういえば、知ってる? うちの小学校の七不思議の一つに、コッペパンの話があるの」 「えっ? あれって本当なの?」  驚いた私を見て、佐藤さんはふふっと意味深な笑みを浮かべた。 「うん。コッペパンに焼きそばやナポリタンみたいな麺を挟んでオリジナルパンを作ったら、好きな人と分け合うといいんだって。そうしたらその二人は結ばれるっていう七不思議なの」 「えっ……そうだったんだ!」  おいおい、椎名くん。  七不思議の内容、違うじゃないか。分け合わないと不幸になるんじゃなかったの?  それともあれは……わざとですか?  あんな変な嘘ついてまで私と分け合って食べようとしたのは、そういうこと?    ムズムズしながらナポリタンを教室に持ち帰り、配膳をした。  用意が整ったらみんなでいただきます、と言って給食が始まる。  すると。 「ジャーン」  今どきあり得ないほど古典的な効果音をつけて、椎名くんが私にナポリタンパンを見せつけてきた。 「あっ! その食べ方!」 「いいだろー。おれのオリジナルパン」 「いや、全然オリジナルじゃないし。むしろ私のパクリだろ」  ちょっとドキドキしながら椎名くんを見つめると、椎名くんはニヤリと笑った。 「半分こ、する?」
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