椎名くんは振り返らない

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椎名くんは振り返らない

「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、友達の椎名くんが呟いた。  彼の視線の先には満開の桜の木があった。   「多分、ここだと思うんだよな」  そう言う彼の手にはシャベルが握られていた。 『幼稚園児の時に埋めたタイムカプセルを掘り起こそうと思うんだけど、一緒に見てみる?』と誘われたのが30分前のこと。  二つ返事で「見る見るー」と言った私は相当なヒマ人だ。    まあ、まだ春休みだし。  六年生になったら、椎名くんとは別のクラスになるかもしれないし。  椎名くんが埋めたタイムカプセルの中身も、全く気にならないと言えば嘘になる。  椎名くんはいつも真面目に変なことを考えている子だから。そんな彼の幼稚園児時代の宝物が何なのか、気になるっちゃ気になる。  というわけでノコノコついて行ったわけだが。 「って、どこ? ここ」 「俺のじいちゃん家。今はじいちゃん入院中だから、誰もいないんだ」  結構立派な二階建ての日本家屋だ。お庭も広くて、樹齢が三桁ありそうなほど大きな桜の木がこの家のシンボルのように立っている。   「間違いない」  椎名くんは自信たっぷりに桜の幹を撫でた。 「ほら、ここに目印を彫ったんだ」  椎名くんが根元近くの部分を指した。そこにはこう彫ってあった。   『そのみつきても、そのたましいはしなず。ぼくのカプセル、ここにねむる』 「それ、墓に刻むやつ!」  こんな立派な桜になに名言っぽいの彫ってんだ。  
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