椎名くんは振り返らない

3/7
前へ
/100ページ
次へ
「おっと、早速手応えあり!」  掘り返して10分ぐらいした頃、椎名くんが歓喜の声を上げた。  意外とすぐに見つかったタイムカプセルは、Dランドのお土産に買ってくるクッキー缶のような形状の容器だった。 「さーて、何が入ってんのかな」  椎名くんは嬉しそうに蓋をこじ開ける。  私もワクワクしながらその様子を見守った。幼稚園児の宝物なんてせいぜい上手に描けたお絵描きとかお気に入りのおもちゃとかだろうけど、椎名くんの場合はどうだろう。  ヘビの抜け殻とかだったらやだな。  なんて呑気にしていた私は、次の瞬間腰が抜けるほど驚いた。 「えっ……? ぎゃあああ! 何それ、何それ!」 「こ、これは……!」  椎名くんは真顔でそれを取り出した。  はまるで──ミイラ化して真っ黒く変色した子どもの手首から先の部分のようだった。 「さくらちゃんの手だ……」 「いやいやいやいや、怖いです。帰っていいですか」 「昔、ここにもう一本桜の木があってだな」 「なに勝手に話し始めてんだ! 怖いって言ってんだろが!」  私はミイラの手首を握りしめたままの椎名くんの頭を思い切り殴った。  しかし彼は取り憑かれたように話を続ける。 「その桜が咲き始める頃にだけ会える友達がいたんだ。それがさくらちゃんだ。さくらちゃんは何故かいつも着物を着ていて、今どき珍しいくらいのキッパリとしたおかっぱ頭だった……」  私はごくっと唾を呑んだ。  「それ……座敷童子じゃない?」 「いや、違う。さくらちゃんは自分のことをコノハナノサクヤ姫だって言ってた……」 「その名前、なんか聞いたことがある。たしか……古い日本の神話に出てくる桜みたいに美しい女神だったんじゃなかったっけ」  いよいよ怖いな。  そんなこと、幼稚園児の持っている知識だとは思えない。 「だからおれ、さくらちゃんに言ってやったんだ。『じぶんのこと、ひめっていっちゃう? イタイねえ〜』って」 「そのツッコミ、世界一いらねえ」  
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加