椎名くんは振り返らない

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 椎名くんは懐かしそうに目を細めて昔を語り出した。 「さくらちゃんはおれにとって初めての友達だった。毎年、春にしか会えなかったけど、じいちゃんの家に遊びに行くたびにおれはさくらちゃんに会えるのを楽しみにしていた。さくらちゃんはおれにメンコとかおはじきとかの古い遊びを教えてくれた。おれはそのお礼に、ゲットしたポ○モンとか集めてたベイ○レードとかを見せてさくらちゃんからマウント取るのが好きだった」 「嫌なガキだな」  私のツッコミを無視して、椎名くんは続ける。 「七年前の春のことだった。さくらちゃんが突然泣きながらおれに『もう会えない』って言ってきたんだ。『何で?』って尋ねたら……『桜の木が切られちゃうから』だって。じいちゃんがサウナにハマって、増築したいから桜の木を一本切るって言い出したんだって」  椎名くんは目の前で咲き誇る桜の花びらを寂しそうに見上げた。 「おれは思った。じいちゃん、いい歳こいてサウナかよって」 「そこは別にいいじゃん」  あえてスルーしようと思っていたのに。 「おれはさくらちゃんに言った。『いや、桜の木が一本切られてもさくらちゃんは関係ないじゃん? 桜の妖精でもあるまいし(笑)』って。そしたら、さくらちゃんは『いや、気づけよ』って秒でつっこんできてさ。『なになに、マジで妖精なの?』って言ったら、『嘘だと思うなら枝を一本切ってみ』とか言うもんだからさ」 「まさか……」  私はミイラ化した手首をそっと見た。 「うん。ノコギリでギコギコやったら、さくらちゃん、『ぎゃああああ!』言って。で、枝を切り落としたら本当にさくらちゃんの手首が取れちゃったの。怖いよね、さくらちゃん」 「悲鳴上げてるのに最後まで続けたあんたが怖いわ」 「すげー気まずかったよ」 「気まずいだけで済むか」  もうやだ、ホラーじゃん。私が泣くわ。
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