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「それっきり、さくらちゃんとは会えなくなったんだ」
椎名くんは寂しそうに呟いた。
「うん、まあそりゃそうだろうね。手首切られたし、さすがに怒ったんじゃない?」
「そんなことないって。別れ際にこの手首をプレゼントしてくれてさ、私のこと一生忘れないでねって。忘れたら恨むからねって泣いてたもん」
「恨まれてんじゃん。怒ってるじゃん、思い切り!」
なぜいい思い出風に語れるのか謎だ。
「それで、椎名くんは手首をもらってどう思ったの?」
「いやーちょっとプレゼント的には重いからナシだわって」
「ひでえな」
「あと、もし腐ったら気持ち悪いから埋めとこって」
「もうゴミ扱いじゃん。さくらちゃん、報われなさすぎ」
手首切られるわ、腐敗気にされて埋められるわ、踏んだり蹴ったりだ。
「それからかな、桜を見るのがあまり好きじゃなくなっちゃったんだ……。唯一の友達を失った悲しみを思い出すから」
さわさわと風が桜の花を揺らした。
まるで桜がしゃべっているように見える。
満開の桜から花びらがひらひらと舞い落ちて、椎名くんの手のひらの上に乗った。
「ありがとう、さくらちゃん。もう心配いらないよ。おれにも藤川っていう、ちゃんとした友達ができたから……」
顔を上げて、満開の桜に向かって会話する椎名くん。
今まではちょっと変な子ども程度の印象だったのに、ここまでのレベルに達しちゃうとね。さすがに怖い。
「タイムカプセル見つかって良かったね、椎名くん。それじゃあ」
私は椎名くんに手を振ってそこからダッシュしようとした。
その時だ。
私の足元の、地面が崩れた。
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