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「普段着で来て良かったあ。ったく、引っかかったのが私だったから良かったけど、普通はこんなことしたら友達なくすからね、椎名くん」
「えっ。マジで? 次に沢田と小野田くんにも仕掛けようと思ってたんだけど」
「やめてあげなって!」
沢田くんはミイラを見た時点で泣いちゃうかもしれないし、小野田くんは何もしなくても自ら落とし穴にかかって逆ギレしそうな匂いがぷんぷんする。
いかん。ちょっと見てみたい。
けど、椎名くんは私だけで満足したようだ。
「友達なくすくらいのことをしたのに──藤川はおれの友達やめないんだ?」
嬉しそうにそう言って、彼はそっと私の前髪に触れた。
そこに花びらがついていたみたい。
ただそれだけ、なんだけど。うっかりドキッとしてしまった。
私はうつむいて、椎名くんの顔を見ないようにした。
「やっぱ分かんない。急に友達やめるかもよ」
「えっ、何で!」
「なんか、気が変わるかも」
「嘘だよな? エイプリルフールだろ?」
「さあね」
エイプリルフールだと思われるから、それ以上言うのはやめておこう。
椎名くんの慌てた顔を見て、ようやくホッコリとしたその時だった。私はふと何かの気配を感じて振り向いた。
そこには大きな桜の木があった。
その幹の陰から、着物を着たおかっぱ頭の女の子がじーっとこっちを見つめていた。
右手の手首から先が真っ黒の。
「ねえ……あれも椎名くんの仕込み?」
「何?」
椎名くんは首を傾げた。彼には見えていないのだろうか。
怖い怖い怖い怖い!
全身、鳥肌!
「じゃ、じゃあね、椎名くん! 新学期で会おう!」
私は土がついたお尻のままダッシュで逃げ帰った。帰ったらお母さんに「何そのお尻、みっともない」と笑われた。
これがトラウマになり、私はしばらく桜が嫌いになりました。
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