椎名くんは笑わない

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「なんでこんなに引きが弱いかな。どっちかが大凶とか引かなきゃ」  椎名くんのテンションはダダ下がっている。 「引きが弱いとか言うな。神様の思し召しだよ」 「お前はもう笑ってはならぬと?」 「いや、そこは勝手にしろと」 「オーマイガッ」  椎名くんはあからさまにガックリと肩を落とした。 「まあまあ、私の末吉よりはいい結果じゃん。私なんて見てよ、ほら。『恋愛・しても無駄。あきらめろ』だって。正月早々幸先(さいさき)わるー! あははは」 「藤川、それは泣くところだろ。なんで藤川が笑っておれが泣いてんの。逆だろ」 「椎名くんの恋愛は?」 「『とうだいもとくらし。近くにりょうえんあり』だって。何だよこれ、全然笑えないよ。意味わかんねーし」  おみくじに笑いを求めることがそもそも間違っていると思う。   「まあ、私らに恋愛はまだ早いよね」 「あー笑いてえー」  椎名くんがぼやいた時だった。お参りに向かう列の中に、知った顔がチラッと見えた。 「あれ、3組の沢田くんじゃない? 隣の女の子は誰だっけ……えーと……あー名前が出てこない」 「何、沢田⁉︎」  椎名くんはサッと血相を変えた。  沢田くんは隣の3組の男子で、椎名くんよりももっと笑わないことで有名だ。でもものすごくイケメンだから人気は高い。  沢田くんの隣にいる女の子は沢田くんの彼女と噂されている子だ。可愛くないというほどではないけど、特別印象に残る感じじゃない。それであのポジションは羨ましいの一言しかない。 「いいなあ、初詣にカップルでデートとか、高校生みたい。うらやましー」 「やべえ……おれ、沢田だけはダメなんだ」  椎名くんはなぜか沢田くんから目を逸らしている。 「どうしたどうした、なんで沢田くんがダメ?」  完全に沢田くんに背を向けた椎名くんの顔を覗き込むと、彼は口元を押さえて言った。 「おれ、あいつがツボなんだ……」 「ツボ? どういうこと?」 「去年イチおれを笑わせた男、それが沢田なんだ……」  
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