椎名くんは始まらない

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「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、友達の椎名くんが呟いた。 「よ」  私はそれに答えて手を振る。  四月。  私たちは進級し、小学六年生になった。  春らんまんの風が吹き渡る教室で、椎名くんの顔を見た時は正直ちょっとホッとした。   「これで藤川と三年間同じクラスだなー」 「奇跡だねー。うちの学年、6組まであるのに」 「そんなことより聞いてくれ、藤川」 「そんなことって何だ。失礼だな」  せっかくこっちは椎名くんと同じクラスになれて嬉しいと思っていたのに。  椎名くんはいつも真面目な顔して変なことを言う子だ。テンションが高いこともあまりない。  二年間一緒に過ごしてもう慣れた。慣れてしまえば、椎名くんのペースに付き合うのはすごく楽だった。  今じゃこの子が何を言おうがびっくりすることもないと自信を持って言える。  そんな私に、椎名くんは真面目な顔でこう言った。 「おれ、たまごになりたいんだけど、どうしたらなれる?」 「は?」  知るか。こっちが聞きたいわ。  いや、聞いてどうする。
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