椎名くんは始まらない

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「そもそもなんで急にたまごになりたいと思ったの?」 「いやー、この春めでたくうちの姉ちゃんが看護学校に入学してさ。これからは私もナースのたまごよとか言い出して偉そうにしてるからさ」 「へえ、椎名くんちってお姉さんいたんだ? おめでとう」  お姉さんがいるなんて初めて聞いた。  椎名くんは謎が多い。 「そしたら、うちの兄ちゃんもこの春めでたく相撲部屋に入ることになってさ。これからは俺も力士のたまごだとか言い出して偉そうにしてるからさ」 「え、え? 椎名くんちってお兄さんもいたんだ? 相撲部屋? 力士? え? あ、おめでとう?」  情報量多いぞ。椎名くんち!  すでについていけなくなりそうだ。 「そしたら、うちの母ちゃんもこの春めでたく四人目を妊娠してさ。これからは私も四児の母のたまごよとか言い出して偉そうにしてるからさ」 「ちょっと待って。椎名くん、弟か妹もできたの? え? すごい、おめでとう⁉︎」  頑張ったな、椎名くんのお母さん。  椎名くん、今年で12歳になるから年の差エグい兄弟(妹)になるな。 「そしたら、うちの父ちゃんもこの春めでたくボイパを習い始めてさ。これからは俺もヒューマンビートボクサーのたまごだぜとか言い出して偉そうにしてるからさ」 「ちょっと、もうお腹いっぱいだよ! お父さんのボイスパーカッションすげー気になるじゃん!」  お父さんの年齢でボイパデビューって、何がきっかけでそうなったんだろう。  椎名くんは真面目な顔で腕を組んだ。 「だからおれも何か始めたくてさ」 「うーん。ナースと力士と出産とボイパの次でバランス取るとなったらかなり難しいね……」  私も一緒に腕を組んで悩んでしまう。  
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