椎名くんは始まらない

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「……」  その時、私たちの隣を無言の沢田くんが通り過ぎた。 「あ、沢田! お前も同じクラスになったんだな。一年間よろしくな」 「あ、うん」  沢田くんはいつも無表情だ。だけどめちゃくちゃカッコいい。 「沢田くんは、今年何か始めたいこととかもう始めたこととかある?」  沢田くんは何だろう。彼の興味の方向性が全く見えない。  すると、沢田くんはボソッと言った。 「……モデル」  モデル⁉︎  え、小学生なのに⁉︎  沢田くんなら有り得なくないけど、意外!  私たちは佐藤さん以外全員驚いた。 「え、マジで⁉︎ どうして⁉︎」 「……スカウトされて」  サラッとすごいこと言ってる。さすがイケメンは違う! 「すごーい! じゃあ沢田くんはモデルのたまごなんだ! 佐藤さん知ってたの?」 「うん、そのスカウトの時、一緒にいたの。商店街のイメージキャラクターを頼まれたんだよね」  ん? 商店街?  規模が小さいな?  まあいいか。モデルのたまごだから、小さいことからコツコツ顔を売るんだろう。  街ブラしているイケメン小学生のポスターとか、健全でいいかもしれない。  そう思った私に、沢田くんがすでに完成したというポスターの写真を見せてくれた。  そこには、魚屋さんの前で胸から下を巨大なカツオに飲み込まれ、半魚人状態になっている無表情の沢田くんがいた。  宣伝文句は『活きがいい! 春のカツオフェア開催中!』だ。  コラ商店街!!  イケメン小学生の無駄遣いすな!!!  あと沢田くんも、断れや。
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