椎名くんは気にしない

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「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、友達の椎名くんが呟いた。  ゴールデンウィークの真っ最中、家にいるのも暇だからと立ち寄った小さな町の本屋でまさか椎名くんに出会うとは。 「藤川、よくここに来るの?」 「いや。初めて」 「俺も初めて」  教室では当たり前に会っている椎名くんだけど、休みの日にたまたま会うと何だか気恥ずかしいものだ。  今日の椎名くんはベージュのAラインビッグロンTにカーキ色のワイドカーゴパンツというゆったりしたシルエットのラフなコーデで、小学生の割にはオシャレで結構格好良い。 「どっか出かけてたの?」 「ううん。あんまり出かけないからさ、せっかく新しく買った服があるのに着ないともったいないかなと思って意味なく着てみたら、じゃあ家にいるのはもったいなくね? って思って意味なく外に出てみた」 「意味ないねー」  椎名くんの行動全てに意味がなくて笑ってしまう。   「そういう藤川もオシャレじゃん。なんかあったの?」 「いや。今日はそういう気分だっただけ」  私も椎名くんと同じような感じで、珍しく可愛いAラインスカートなんていう滅多に着ないものを着ていた。そうしたら家にいるのがもったいなくなって、なんとなく外に出たのだった。 「なんか似たもの同士だなー俺ら」 「不本意だけどね」  椎名くんははっきり言って変な子だ。いつも真面目な顔をしているけど、発言の八割くらいは変なことを言っている。そんな人と似ているなんて言われると不本意だとしか思えない。  椎名くんはそんな私に気を悪くした風もなく、ふにゃっと笑った。 「じゃあまた明日」 「うん。学校で」  私たちは片手を上げてバイバイした。  外に出てみて良かったかな。椎名くんに会えたし、少しは暇つぶしになった。
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