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まだ時間があるからブラブラしよう。
ちょっと前髪が伸びてきたし、髪でも切りたい。
ショーウィンドウに映った自分を見て、そんなことを思う。
そういえば、家の近くにオープンしたばかりの美容院があったな。オープン記念で初めて来店した人は10パーセントオフだとか貼り紙をしていた。
前髪カットとシャンプーだけなら小学生でも気軽なお値段でやってもらえそう。お小遣いは充分持ってる。
よし、行ってみようと決めてから30分後。
ようやく呼ばれたシャンプー台で仰向けになり、目の上にタオルを置かれた時だった。
「痒いところはございませんか?」
「大丈夫でーす」
すでにシャンプーされてる隣の台の客と美容師さんが会話している声が耳に入る。声変わり前の男の子の声。なんかどっかで聞いたことがある声だ。
「きみ、小学生? オシャレしちゃって、これからデート?」
「いや、暇だったんで前髪でも切ろうかなと思って」
「オトナだねえ。普通はこんなところ一人でフラッと来たりしないよ? 度胸あるねえ」
「そうっすか? 度胸なら、おれなんかよりうちの親父の方がすごいっすよ。ただのサラリーマンなのに、このまえ勝手にボイパで路上ライブとかやってましたもん」
「ボイパの路上ライブ、聞いたことない。とんがってるねー」
「椎名くん⁉︎」
私は思わず隣の人に突っ込んだ。
ボイパで路上ライブするようなとんがった父を持っている小学生男子なんて、椎名くんしかいないだろ。
「その声は、藤川⁉︎」
「また会ったね。こんなところで再会するとは」
「すげー確率」
お互いにシャンプー台の上って、どんな再会。
「なになに、友達? まさか、彼女?」
美容師さんも驚いている。
「うーん。ただの同級生っすね」
自分が聞かれていたら同じ答えを返していたけど、椎名くんから言われるとなんかムカつくのは何故だろう。
「残念。カップルだったらカップル割でさらに5%オフだったんだけどな」
「すいません、嘘ついてました。おれらカップルです」
この野郎。5%オフにつられて嘘つきやがった。
まあ、私も同じことを言ったかもしれないが。
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