椎名くんは気にしない

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「あの小学生カップル、可愛いー」  斜め後ろの方からクスクス笑い声が聞こえた。  その小学生カップルって、私たちのことじゃないだろうな? 恥ずかしすぎて振り向けない。 「やっぱ来るんじゃなかったな」 「何で? 美味いじゃん」 「だってなんかさあ、オシャレして髪型まで決まってて隣り合って写真撮って同じかき氷食べてんだよ? どう見てもデート中のカップルじゃん私ら」 「気にすんなよ、そんなこと」  椎名くんは本当に何も気にしてなさそうだ。 「それよりさあ、藤川」 「何?」 「この後、どうする?」  椎名くんはチラッと私を見て言った。 「どうするって?」 「おれは帰るけど、藤川はどうすんのかなと思って」 「私も帰るよ」  何の確認? ちょっと気になる。 「じゃあもう偶然会ったりしないよな」 「しないだろうねえ」 「それならいいんだけど」  椎名くんは意味深な顔つきでジョッキの底に溶けていた最後の氷をすくう。 「偶然会ったらなんかダメなの?」 「うちの小学校の七不思議の一つでさ、『運命の歯車』っていうのがあるの、知ってる?」  私は首を横に振った。  うちの学校には七不思議があるらしいとたまに聞くけど、それが何なのか私は全然知らなかった。 「どんなの?」 「学校の外なのに、生徒同士が一日に四回以上偶然出会うと運命の歯車によって永遠に離れられなくなるっていう呪いにかかるんだって」 「何それ、こっわ」  私は思わず笑ってしまった。  でも待って。  今日、私と椎名くんは本屋で会って、美容院で会って、移動販売のワゴンの行列で会ったからもう三回偶然会っている。 「あと一回だね」 「あと一回だな」  なんだかちょっと怖くなってきた。  私たちはかき氷を食べ終えるとすぐに帰ることにした。 「じゃあまた明日」 「うん、学校で」  店の前で別れる。今度こそ、椎名くんには会わないぞ。
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