「さぁ、あなたはお気付きだろうか」

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「見当たらないんだ。僕の薬が。ねぇ雪知らない?」 「貴方また失くしたの?最近毎日なくしてるわね」 「なくなるんだよ。毎晩風呂上がりに、ここへ置いてるのに」 「でも変ね。その引き出しの上。私も貴方も届かないのに、一体誰が盗んだのかしら?」 「解らないよ。だから尋ねているんじゃないか」  夫婦の声が木霊する。 『いつもここに置いてくれるのは、嬉しいけど。少し高くはないか?もう少し手の取りやすいとこにしてくれよ』 『イヤね、貴方。いつも自分で置いて飲んでるじゃないの』  最初の夫婦は、湯煙に仰がれて、夫が薬を毎晩高い棚へ置く。  後者の夫婦は、夫がいつも置かれた薬を飲んでいた。    一組目の夫婦は軽く、透き通り。  二組目の夫婦は、自らの足で歩き、見て回ったこの家を買った。  一組目の夫婦の声は響かず。  二組目の夫婦の声のみ、この家には木霊するのだ。    さぁ、あなたはお気付きだろうか。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加