8 夕日と海と、知らない気持ち[side 聖夜]

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「お願い、聖夜。私のこと、これまで通り旭って呼んで?」  彼女の言葉を聞いて、俺は我に返った。 「あっ…………い、いいの?」 「うん。……というか、そうして欲しくて黙ってた、から」  そう言って、少し頬を染める旭。  …………可愛い、な。 「聖夜?」 「あっ、ご、ごめん!えっと……旭がそれでいいなら、俺も今まで通り話すよ」 「うん……ふふっ、ありがとう」  旭は明るく笑って、俺の手を引く。 「ほら、一緒に帰ろう?」 「っ…………?」  握られた手が熱くて、胸がドキドキして、苦しくて…………。自分の気持ちが処理できなくて、混乱してしまう俺。  そんな俺の手を引いて、彼女は嬉しそうに笑っていた。その笑顔が可愛らしくて、俺の心臓が、またうるさくなる。  この時は、まだ気づいていなかったんだ。  自分の気持ちにも、旭の気持ちにも……彼女が、笑顔の裏で抱えていた苦しみにも…………。
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