9 隠し事[side 旭]

3/18
前へ
/113ページ
次へ
 ドアを開けて、鞄を床に置くと……中から手帳を取り出して、表紙をめくった。すると、表紙の裏に貼られた、ぴょん助君のシールが目に入る。  ……あの日、聖夜がくれたシール。聖夜が、私と仲良くなってくれた証。  聖夜…………。  彼の温かさを思い出したら、切なさと申し訳なさが込み上げて、涙が零れた。  っ……ごめん。ごめんね、聖夜。あなたは私と仲良くなってくれたけど、本当の私は…………。 「旭さん、部屋にいるのですか?」  ドア越しに声が聞こえて、私は慌てて涙を拭い、ドアを開ける。そこに居たのは、エプロン姿の知江さんだった。  知江さんは、私の顔を見るなり心配そうに顔をしかめる。 「旭さん……泣いていたの?」 「い、いえ!平気、です……」 「そう……」  知江さんは何か言いたげな顔をしていたけど……やがて頷いて、私に背を向ける。 「ご飯、出来てますから。下りてきてくださいね」 「はい…………」  スタスタと廊下を歩いていき、階段を下りていく知江さん。  彼女は、私の新しいお母さん。お医者さんで、綺麗な赤い髪をしていて、美人で、賢くて…………みんなが、知江さんを必要としている。お父さんも、そう。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加