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行く宛てもなく、私は町を歩き回る。
潮風が香る、自然豊かな天ヶ原町。小さい頃から、私はこの町が好きだった。両親が離婚して町を離れた後も、この町がどこか恋しかったんだ。
あれからもう10年以上経ってるけど、天ヶ原町の町並みは昔とあまり変わっていない。だから、少しだけ安心する。
でも、それと同時に、この10年で変わってしまった私自身のことが頭から離れなくて、胸が苦しいんだ。あの頃みたいに、家族と心から笑えなくなってしまった私が、胸に暗い感情を抱いている私が……汚くて、嫌いで…………。
あの夕方の海のように、私も綺麗なままでいたかった。私の世界も、綺麗で優しいままであって欲しかった…………。
……こんなこと、考えても仕方ないのに。もう、あの頃のようには戻れないのに。
暗い気持ちが胸の中で大きく波打つ。もう、それに溺れてしまいそうだった。
息苦しさを堪えながら、歩いて、歩いて……河川敷に差し掛かった時。
「翔太~!もう少し強くボール蹴ってくれよ~!」
「無茶言うな。俺はサッカー部じゃないんだぞ」
「そうだよ~。聖夜のレベルに合わせるの大変なんだよ?」
聞き慣れた声が、誰かと話してるのが聞こえたんだ。
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