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脳裏に、彼女に出会った時から今までの光景がフラッシュバックする。
日の光に当たると柔らかく光る、サラサラとした優しい茶髪。本当に綺麗だった。穏やかな蜂蜜色の瞳。でも、その瞳を細めて、ボクに心からの笑顔を見せてくれることはなかった。色白で、細く柔らかな腕。でも、その腕でボクを抱きしめてくれることはなかった。
なのに…………。
どれもこれもが、ボクは欲しくてたまらなかった。旭に、愛して欲しかった。ボクの前で、笑顔になって欲しかった…………。
……でも、それすら、叶わないのか。
「…………はは」
ボクの口から乾いた声が漏れた。どうにかして、この苦しさを誤魔化そうとして出た笑い声。でも、心は楽になってくれない。
ここに、居たくないな。今すぐ、立ち去りたいな……そう思っていた矢先、燕さんに腕を引かれて、コンビニの裏に連れていかれた。
「燕さん…………?」
ボクが彼女の顔を覗き込むと、その顔に先程までの笑顔は無かった。
「…………聖夜、さん」
燕さんの口から、聞き覚えのある名前が零れ落ちる。
「聖夜さん……彼女、いたんだ…………」
燕さんの瞳に涙が溜まる。
その様子を見て、気づいてしまった。燕さんも、ボクと同じだってことに。
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