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将来やりたいことはちゃんとあった。
けど、じゃあ今やりたいことは?と聞かれたらなにも浮かばなくて。
未来ばっか見て何にもなれないままの自分も、その状況に違和感も覚えずただ勉学に明け暮れる周りも、みんな嫌になった。
学校に行く気力がなくなって、不登校になってもう2週間目。
誰もいない家にいるのも息が詰まったので電車に乗って出かけた。
特に行くあてもないため、良く友達と遊びに来る駅で降りて、そして、
俺は出会った。
駅の外の小さな広場で、彼女は歌っていた。
おそらく同じ高校生くらいの年だろう。制服は着ていないから、そもそも通っていないのか、同じ不登校か。
同じ同じといいつつ、俺と彼女は1つ決定的に違った。
何をしたらいいかもわからず全てを投げ出した俺。対して彼女は、ただまっすぐに歌を歌っていた。
平日の昼間とあって、ここは人通りが少ない。その中でも足を止めて聞いている人か何人かいた。
それくらい彼女の歌は上手くて、どこか惹き付けられた。
足が縫い止められたようで、呆然と聞き入る。
頬に光る汗が綺麗だな、とただぼんやり思った。
ふと、声を張り上げながら彼女がこちらを見た。
視線が交わる。
まっすぐな目だ、と思った。向かってくる全てを跳ね返すような強い目をしている。
息を呑んだ俺に、彼女は小さく、でも力強く頷いた。
そのままふいと目は逸らされ、曲はサビに入る。
「〜〜〜〜っ!!」
力強く張り上げられた声は揺らがない。どこまでもまっすぐに耳に飛び込んで鼓膜を通り越し、心を揺らす。
突然に、思った。
隣で俺も歌いたい。誰よりも胸を張って、彼女の隣に立ちたい。
まだ話したこともない、知り合いですらない人に対して何を考えているのだろう。けど、その願いは確かに胸に存在している。
そこまで考えて我に返り、俺は目を瞠った。
「見つかったな。やりたいこと」
ずっと曇っていた心がスッキリしたのがわかる。
でも、どうしたら彼女と歌えるまでになるだろう。まずは知り合いになる所からだろうか、それとも先に俺も練習を始めてみるべきだろうか。
考えつつ、目を瞑る。
今はもう少し、この歌を聞いていたかった。
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