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呼びかける声
母からの電話。もしもし、も言い終わらない内に、慌てた声で
「今、お母さんの事呼んだよね!大丈夫?何かあった?」
と聞いてきます。
え?え?え?
聞けば、ついさっき私が「お母さん」と呼んだ声がしたそうです。玄関から聞こえるのだと思って(それくらい鮮明に聞こえたそうです)
「上がっておいで〜って言っても全然来ない、どうしたのかと玄関に行ってみたけど姿がない。これは何かあったのかと思って」
そう言った後に徐ろに、ごめんねと言い出しました。
何?何?何?
最近、小さかった頃の私が母を呼ぶ夢をよく見るのだそうです。振り返ると幼い私が、今にも泣き出しそうなのに、泣くのを我慢しながら母を睨んでいるのだそうです。
「あの顔は見覚えがあり過ぎるの。私が意地悪したくせに、あなたが泣くと、泣くな!って怒ってたから、あなたは絶対に泣かなかった」
「……違うね、泣けなかったんよね」とポツリ。
「あのね、お母さん、あの顔見て楽しんでたんよ。酷いよね、昔を振り返ってみて本当に何て酷い親だったかと今になってわかったよ。ごめんね、もっと可愛がってあげればよかった」
物凄くしょんぼりしています。
今まで何があってもケ・セラ・セラ、何とかなるが座右の銘だった人なのに、一人でいる時間が長くて色々考えて深い穴に落っこちてしまってるようでした。
「うーん、2つ3つの頃は流石に覚えてないけど、お母さんを呼ぶってことは、睨んでるんじゃなくて抱きしめて欲しいんじゃないかな?今度夢見たら抱きしめてあげたら良いかもね」と言うと
「そう、そうよね、……ああ、あの頃に戻りたいなぁ、ごめんね、寂しかったよね、辛かったよね、やり直したいなぁ」
益々しょんぼり。
私も時を戻せるものなら、やり直したいこと満載ですが、なにせこればっかりは仕方ありません。
「だったらこうしよう、来世また私を産んでちょうだいよ、そんでうんと可愛がってよ」
私がそう言うと、
「来世で?また?うん、うん、絶対そうする!」
と明るい返事が返ってきました。
「今の今まで死ぬのがすごく怖かったんだけど、来世またあなたを産む事考えたら一瞬で怖くなったよ。来世ではずっと抱っこするから、可愛がるからね、うん、可愛がる。ああ、楽しみ」
「待って待って、来世は来世で楽しみだけど、そう簡単に今世を終わらせたらいけんよ」
少女のようにキャッキャと喜ぶ母に言うと、それもそうだねと笑ってました。
取り敢えず今世でやりたい事を聞き出しました。何も無いと言いつつ、更に聞いていくと、韓国ドラマにどっぷりハマっていた母、韓国旅行がしたいそうです。
「じゃあ行こう、さあ、元気になろう!」
そう言う私に、最初は無理よと言ってた母も、飛行機もいいけどフェリーもいいね、美味しいもの食べよう、ドラマの撮影場所巡る?私全然わからんから教えてよ、韓国語聞き取れる?任せたよ、など具体的な話をすると、返ってくる声が段々と弾みだしました。
希望って心の薬なんじゃないかな思います。少し先に楽しい予定があると何だか毎日元気に過ごせますよね。心と体は一心同体。心が体を引き上げてくれたら、そう願っています。
いつか叶うと信じて。
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