柚希、バスケ部キャプテンになる

杉浦柚希

　残り2秒。点差は2点。
　朝香(あさか)先輩がカットインで中へと切り込み、相手を引き付ける。楓音がフリーになった瞬間を見逃さず、朝香先輩から楓音へパスが出た。
　慌てて楓音へと走るディフェンスより先に、シュートが放たれた。3ポイントシュートだ。

　綺麗な弧を描き、リングへ向かうボール。私たちは祈った。
「入って！！」
　私たちは叫んだ。しかし―ー、

　ゴン！　という鈍い音が私たちの願いを打ち砕いた。リングに当たり跳ね返ったボールを相手のセンターが捕った瞬間、すべてが終わった。
　ブザーが鳴り、試合終了。紅羽高校の全国への夢は終わった。

　泣き崩れるメンバーもいる中、朝香先輩は毅然とした態度で立っていた。シュートを外した楓音に何か声をかけていた。きっと先輩もつらいはずなのに、こんなときまで気丈に振る舞うことのできるあの人は、私の理想のキャプテンだ。

　スタンドで立ち尽くしたまま私は拍手を続けていた。こちらへと近づいてきた朝香先輩と目が合うと、先輩は微笑み、私に手を振ってくれた。

　これで三年生は引退する、朝香先輩も引退する。遂に一度も公式戦で朝香先輩とプレイすることができなかった。私も何でもいいから役に立ちたかった。それがもうできないことが悔しくて、悲しくて、私は泣き崩れた。

　そんな悲しみが胸に抱えたまま迎えた翌日のミーティングで、ある発表がされた。
　それは、私の人生であんなに驚いたことはないというほどの発表だった。