杉浦柚希

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*  ベンチ入りもしていない私がキャプテンになってしまった。  これは夢なんじゃないかと思ったが、寝ても覚めても私が部長だった。ふわふわした世界のまま、翌日の放課後を迎えた。  部室で着替えをしながら、みんなといつもどおり話し、体育館に行く。ここまではいつもどおりだった。ただ、体育館の扉をくぐった瞬間、「いつもどおり」ではない視線が私に集まったことを感じた。  みんなが私を見る視線が今までとは別の物になっていた。  今までならば、私は体育館に入ったらボールを手にして、ドリブルだのシュートだのの開始前練習をしていれば、朝香先輩が「はじめるよ」と言ったときから部活が始まった。  しかし、もう朝香先輩はいない。 「柚希」  松田恵梨香(まつだえりか)が私に声をかけてくれた。私は大きく息を吐き出してから頷いた。 「あ……はじめよっか」  みんなが「はい!」と声を出してくれた。  いつもどおり体育館の中を二列になって私たちは走り出した。いつものアップがわりのランニングだ。この後に柔軟をして……それから……どうするんだっけ?  もしかして、練習メニューを考えるのって私なのか……?  今まで考えたことなんてなかったぞ。朝香先輩は今までどうやって毎日のメニューを考えてたんだ? そんなこと全然知らない、まずい、まずすぎる!  混乱したまま走ってると、隣の恵梨香が私の顔の前で左手を振った。何かに気づけとでもいうように。 「なに、恵梨香?」 「何周走る気?」 「え?」  いつのまにか今までの体育館内走より何周も多く走り続けていたらしい。止まってから見渡すと、一年の森なんかは肩で息をしていた。 「アップからなかなかハードな感じで行くんだね」  余裕そうな顔をした楓音が笑みを浮かべながら言った。 「いや、つい考え事してたらさー……ごめん」  この後、柔軟をやったら次のメニューはどうしよう。私は毎日のゴハンのメニューを考える母親のように、頭の中を悩ませていた。  とりあえずは、朝香先輩のときと同じようなメニューをこなしていくことで、新チームは始まった。
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