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始まりのモノクロ
ーーーー窓から吹き込む風が白いカーテンを揺らしている。
窓から溢れた日射しが日だまりとなって影を伸ばした。
その日射しに当たらないように少し椅子を引かせた所に腰をかける女子生徒が1人。
黒く艶やかな長い髪は、夏風に揺られてさらさらと擬音が聞こえてきそうなほど滑らかだ。
その髪の揺れた隙に見える横顔に見惚れる生徒もいるようで、その視線から逃げるようにして女子生徒は窓の外に視線を落とした。
古文を担当する教師の声は子守唄にちょうどよくウトウトしている生徒も数人。
女子生徒はそんな声に耳を傾けることなく、ゆったりと流れる時間を浪費している。
そんな彼女を咎めるものはいない。教師すらも近寄ろうとはしない。
クールで大人びた性格から近寄りがたい存在と思われているという理由が一つ。
不気味な子。そう彼女を見たものは口々に陰口を叩く。
その美貌から遠目で見てる分には目の保養になるとも囁かれる始末だ。
無論。そんな声たちは彼女の耳にも届いている。
彼女の耳に入った言葉は、脳に入れば直ぐ様シュレッダーにかけられて、残されるのは無だけだ。
「退屈ね」
彼女は小さくそう呟いた。隣の席の女子生徒は、彼女の発した言葉は聞き取れずに、発せられた声だけが鼓膜を揺らし、彼女の発した言葉を推測しながら怯えている。
「では、今日はここまでにしましょうか。では学級委員お願いします」
古文教師がそう締めると、学級委員長が起立を促す。
その声に反応してだらだらと立ち上がる生徒たち。
教師は教室内を一辺してひとつの席で目を止める。
クラス中が起立をしているなか一人だけ座ったまま、窓の外の風景を眺めている生徒がいる。
そう彼女だ。まるでマネキンのようにじっとその場を動かないどころか、視線すらも微動だにしない。
「あ、えっと~」
教師はそれに困惑し言い淀む。
「えっと。く、く黒羽さん。き、き、起立ですよ~」
隣席の女子生徒が勇気をだして吃りながら彼女を促す。
「え?」
不意に声をかけられた彼女は、クールに一文字だけその疑問符を浮かべると教室中を見渡す。
「あら、あり」
「ごめんなさい。余計なことを」
「え?あ、いや」
「ごめんなさい」
彼女は素直な礼を述べようと彼女に向け口を開いた。しかし、それに被さるようにして女子生徒が平謝りするものだから、彼女は狼狽えてしまう。
ざわざわと教室内に広がるさざ波。
「はぁ~」
彼女は諦めたように席を立つと凛と姿勢を正した。
「あ、はい。じゃあ挨拶を」
それを見た教師は切り替えるように学級委員に挨拶を促すと、学級委員長の号令と共に教室内のざわめきが止んで、「ありがとうございました」という声が重なった。
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